この記事の概要
2026年4月30日、AWSはAmazon Q DeveloperのIDEプラグインとサブスクリプションを2027年4月30日にサポート終了すると発表した。さらに2026年5月15日から新規サインアップが停止される。後継はAWSが新たに開発したAIエージェント開発環境「Kiro」で、Spec駆動開発・Hooks・Steering filesといった新概念でAI支援コーディングを大幅に進化させる。本記事では移行スケジュール、Kiroの主要機能、実際の移行手順を解説する。
Q DeveloperはKiroに進化する:今すぐ移行すべき理由
Amazon Q Developerは2023年のローンチ以来、VS Code・JetBrains・Eclipse・Visual StudioなどのIDEに組み込まれたAIコーディング支援ツールとして広く普及してきた。コード生成・デバッグ・チャットベースのガイダンスを通じ、多くの開発者の日常ワークフローに定着している。
しかしAWSは「コード生成・補完を超えたAI体験」を実現するため、ゼロから設計した新プラットフォーム「Kiro」を構築し、Q DeveloperからKiroへの移行を決定した。
重要な日程を整理しておく。
| 日付 | 変更内容 |
|---|---|
| 2026年5月15日 | Q Developer Free Tier新規サインアップ停止・新規サブスクリプション作成停止 |
| 2026年5月29日 | Q Developer ProでClaude Opus 4.6が利用不可(Opus 4.5以前は継続) |
| 2027年4月30日 | Q Developer IDEプラグイン・サブスクリプションのサポート完全終了 |
2026年5月15日は本記事執筆時点(5月9日)からわずか6日後だ。現在Q DeveloperのFreeプランや新規Proサブスクリプションへのサインアップをまだしていないチームメンバーがいれば、5月15日以前に手配するか、直接Kiroへの移行を検討する必要がある。
なお、AWS管理コンソール内のQ Developer、AWSドキュメント、モバイルアプリ、Slack・Microsoft TeamsのQ Developer for Chat Appsはこのサポート終了の対象外となっており、引き続き利用可能だ。
なぜQ Developerは終わり、Kiroが始まるのか
AWSがQ DeveloperからKiroへ移行する理由は、AIコーディング支援の「次のステージ」に対応するためだ。Q Developerが証明したのは「AI支援はIDEの内側に組み込まれるべきだ」という事実だった。しかし実際に使い続けていると、ある壁にぶつかる。
単発プロンプトへの反応では、大規模なコードベース変更に限界がある。
コード生成を頼んでも、アーキテクチャの意図・テストの前提・要件との整合性を維持するのは結局エンジニア自身だ。Kiroはこの課題を「Spec駆動開発(Spec-driven development)」という新しいアプローチで解決する。
従来のQ Developer:
エンジニア → プロンプト入力 → AIが1ファイル生成 → エンジニアが統合
Kiroのアプローチ:
エンジニア → Spec(構造化された要件)作成 → KiroがSpec全体を理解して
計画・実装・テスト・ドキュメント更新まで自律実行
Kiroは「プロジェクト全体のコンテキスト(アーキテクチャ・要件・テスト・コードの意図)」を理解した上で変更を加える設計になっている。これはQ Developerと根本的に異なるパラダイムだ。
Kiroの5大機能を実務目線で理解する
Specs(スペック)
Specs は「何を作るか」を構造化した自然言語の要件定義ファイルだ。Kiroはこのファイルを読み込み、実装→テスト→ドキュメント更新を一貫して進める。
# Spec: ユーザー認証モジュール
## 要件
- JWTトークンによるステートレス認証を実装する
- トークンの有効期限は24時間とする
- リフレッシュトークンによる自動更新に対応する
## 検証基準
- 有効なトークンで保護されたエンドポイントにアクセスできること
- 無効なトークンでは401が返ること
- 期限切れトークンでリフレッシュが正常動作すること
このSpecファイルをKiroに渡すと、Kiroは実装計画を立て、コードを書き、テストを作成し、READMEを更新する。途中で「なぜこの設計を選んだか」の説明も出力する。
Hooks(フック)
ファイル保存・コミット・その他イベントをトリガーに自動実行されるアクションだ。コードレビュー・テスト実行・ドキュメント自動更新などを「手動で忘れる」ことなく実行できる。
# .kiro/hooks/on-save.yaml
trigger: file_save
pattern: "src/**/*.py"
actions:
- run_tests: unit
- lint: ruff
- update_docstrings: changed_functions
Steering files(ステアリングファイル)
プロジェクトのアーキテクチャ・コーディング規約・制約事項をKiroに永続的に伝えるファイルだ。「このプロジェクトではDI(依存性注入)パターンを使う」「外部APIの直接呼び出しは禁止でリポジトリパターンを使う」といった意図をKiroに「覚えさせる」ことができる。
# .kiro/steering/architecture.md
## 設計原則
- クリーンアーキテクチャを採用(Domain/Application/Infrastructure/Presentation)
- すべての外部依存はInterfaceを介してDIコンテナで注入する
- データベースアクセスはRepositoryパターン経由のみ
## 使用技術
- Python 3.12 + FastAPI
- PostgreSQL(ORMはSQLAlchemy 2.0)
- 認証: JWT(PyJWT 2.x)
Custom subagents(カスタムサブエージェント)
セキュリティレビュー・APIコントラクト検証・インフラプロビジョニングなど、ドメイン固有タスク向けに自分でAIエージェントを定義できる。チーム固有のベストプラクティスをエージェントとして組み込むイメージだ。
Powers(パワーズ)
Kiroのエージェント動作を拡張するコンポーザブルなモジュール。プロジェクト固有のワークフローに合わせてKiroの能力を追加・組み合わせできる。
実際にQ DeveloperからKiroへ移行する
ステップ1: Kiroをダウンロードする
公式サイト kiro.dev からKiroをダウンロードしてインストールする。現時点でVS CodeベースのKiro IDE(デスクトップアプリ)とKiro CLIが提供されている。
ステップ2: 既存の設定・コンテキストを移行する
VS Code・JetBrainsからの移行手順は kiro.dev/docs/migrating-from-q-developer/ に詳しくまとまっている。
# Kiro CLIでプロジェクトを初期化
kiro init
# 既存プロジェクトのコンテキストをKiroに読み込ませる
kiro context scan .
# Steering fileの雛形を生成
kiro steering generate
ステップ3: 最初のSpecを作成してKiroを体験する
移行後に最初にやるべきことは、既存のissueやバックログの1タスクをSpecファイルとして書き起こし、Kiroに渡してみることだ。
# Spec: APIレスポンスのキャッシュ追加
## 背景
GET /api/products エンドポイントが毎回DBに問い合わせており、
ピーク時にレイテンシーが500msを超えている。
## 要件
- Redisを使ったキャッシュ層を追加する
- TTLは5分とする
- キャッシュヒット率をメトリクスとして記録する
## 検証基準
- 2回目のリクエストで50ms以下のレスポンスを確認できること
- RedisなしでもGraceful degradationできること
今すぐ行動すべき3つのステップ
1. 現在のQ Developer利用状況を確認する
チームでQ Developer Free Tierを使っているメンバーがいれば、2026年5月15日までに使いたいメンバーの分のアカウントを作るか、Kiroへ直接移行するかを判断する。
2. Kiroをダウンロードして試す
Kiroは現在無料で試せる。移行期限(2027年4月30日)まで1年近くあるが、新機能(Opus 4.7など最新モデル)はKiroでのみ利用可能なため、早めに試しておくメリットは大きい。
3. プロジェクトにSteering fileを導入する
Q Developer→Kiro移行の本質は「AIにプロジェクトのコンテキストを持続的に理解させる」設計への転換だ。既存プロジェクトであっても、アーキテクチャ方針を.kiro/steering/に書き起こすことから始めると、Kiroの力を最大限に引き出せる。
まとめ
Amazon Q DeveloperからKiroへの移行は、単なるツール切り替えではなく「AIコーディング支援のパラダイムシフト」だ。プロンプトへの反応型から、Specを起点にプロジェクト全体を理解したエージェント型へ。5月15日の新規サインアップ停止を目前に、まずはKiroをダウンロードして小さなSpecを書いてみることから始めてみよう。
参考リンク
- Amazon Q Developer end-of-support announcement — AWS公式発表
- Kiro公式サイト — ダウンロードと公式ドキュメント
- Q DeveloperからKiroへの移行ガイド — 各IDE別の手順


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